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医師コラム

ひとりごと ~胃潰瘍治療について~

以前から思っていたことと自己研鑽のため調べたことを「ひとりごと」としてだらだら語ろうと思います。専門的な内容を含んでいますので一般向きではありません。手持ちの書籍やネットベースで調べた程度で、私見と個人的な経験も含まれていますので異論がある方もいると思いますが、「ひとりごと」なので軽く流していただけましたら幸いです。

胃潰瘍

胃潰瘍の治療として胃酸分泌抑制薬を使用しますが、これは胃酸を抑えることで潰瘍治癒を促進するものと理解しています。また、H2blockerよりPPI・PCABの方が治りやすいということは、より胃酸分泌を抑えた方が潰瘍治癒には効果的ということなのだと思います。

ピロリ菌による胃潰瘍についてですが、ピロリ菌はウレアーゼ活性によりアンモニアを発生させpHを上げることによって胃酸の中で生息できますが、そのアンモニアが胃を損傷する働きを持っていると言われます。その他、ピロリ菌は病原因子であるVacA蛋白やCagA蛋白を産生します。VacA蛋白は胃粘膜を損傷させ、CagA蛋白は炎症性サイトカインを産生を促進し、炎症を増強させます。これによって萎縮性胃炎・腸上皮化生を引き起こし、胃潰瘍ができやすくなります。他にも色々な原因があり、すべてが解明されているわけではないようですので、たかが潰瘍されど潰瘍と言わざるを得ません。

ピロリ菌

萎縮性胃炎や腸上皮化生がひどくなると、胃酸分泌は低下します。それでもピロリ菌による胃潰瘍の第一選択薬は胃酸分泌抑制薬です。そして難治性になればPCABが一番効く印象がありますが、胃酸分泌が低下した胃でも、より胃酸分泌を抑える方がいいということになります。一部のPPIにはピロリ菌の静菌作用やウレアーゼ活性の阻害作用がありますが、PCABにはそれがありません。それでもPCABが効きやすいということは、ピロリ菌による胃損傷作用を抑えることより、胃酸を抑えることが一番重要ということなのでしょうか。実際に萎縮の程度と胃内pHの関連性と胃酸分泌抑制薬の強さで治療効果を比較した胃潰瘍のデータを見つけられなかったので、そこには興味があるところです。

(*PCABに関して:製造元の見解ではピロリ菌の静菌作用、ウレアーゼ活性阻害は有していないとされていますが、ヘリコバクターピロリ学会のガイドラインにはウレアーゼ活性を阻害し尿素呼気試験に影響すると記載あります。製造元も除菌判定には2週間以上の休薬を推奨していますので、問題ないのですが・・・)

ピロリ菌感染による萎縮性胃炎は胃酸分泌を減らしますが、ピロリ菌による影響で潰瘍を作ります。その一方で、ストレスやアルコール摂取によって胃酸分泌は促進されますが、それにより胃炎や潰瘍を起こすことがあります。胃潰瘍は攻撃因子と防御因子のバランスが崩れた時に起こるといわれ、胃酸が増えても減っても他の原因の重なれば胃潰瘍を発症しますが、潰瘍治療は胃酸分泌抑制薬が一番効果的です。なんとも不思議な感じがしますが・・・

ついでですが、消化性潰瘍診療ガイドラインによるとPPIと防御因子増強薬との併用による潰瘍再発に対する上乗せ効果はありません。H2blockerと防御因子増強薬との併用は上乗せ効果ありです。攻撃因子と防御因子のバランスと言われてますが、結局は胃酸分泌なんでしょうか。PPIで良くならない前庭部の難治性潰瘍は腸液・胆汁・膵液などの逆流も関与していると思うので防御因子増強剤などは効果があるのではと予想するのですが、実際にはPPIをPCABに変えると治ったりします。これは防御因子増強薬の効果が無さすぎなのか、腸液・胆汁・膵液の関与があっても単に胃酸を抑えれば抑えるほど抗潰瘍効果が上がるということなのか何とも言えません。

ようするにつべこべ言わずに胃潰瘍に対してはPPI・PCABを処方すればいいというわけですから、単純明快でわかりやすくはありますが、色々考えると疑問に思うことも多々ありますね。

特に消化器内科医はPPI・PCABを信頼しているというか、PPI・PCABを内服させていないことで痛い目にあったことが多々あるので、PPI・PCABを処方しがちな気がします。

最後に余談ですが、胃酸の役割は胃内に入ってきた細菌を殺菌することと、食物を消化することです。絶妙なバランスで保たれているところをPPIを入れることでバランスを崩している気もします。PPI長期内服は骨粗鬆症や感染症、認知症などのリスクになるとされています。しかし、PPIを長期投与している方は沢山いますが、前述の疾患になりやすいと感じたことはそこまで多くありません。PPI長期内服で腸内細菌叢が変化することが影響しているという報告もありますが、人の体はすごいもので、だんだん適応していく(adaptation)という報告もあります。

何にしても医療はリスクとベネフィットを考えながら行っていくことが大事ということでしょうか。まとまっていない気もしますが、何年かしたら今より胃潰瘍の知見が増えて、色々な疑問が解決されることを期待して話を締めようと思います。

*ちなみに胃潰瘍治療は先人の方々のおかげで以前に比べ大幅に進歩しており、実臨床では特に不満はありません。

胃潰瘍の原因はピロリ菌と薬剤が多くを占めています。まだ、ピロリ菌を調べたことがなくて時々胃部不快感がある方は胃カメラをお勧めします。また、一度ピロリ菌を治療した方は胃潰瘍になりにくくなしますが、胃がんのリスクは未感染の方より高いので年に1回程度の胃カメラが必要です。

胃カメラ

当院では経験豊富な内視鏡専門医による胃腸科・消化器外来と内視鏡検査胃カメラ)を行っています。鎮静剤を使用した検査を行っており、苦痛の少ない検査を心掛けております。予約から検査後までの流れを説明していますのでご参照ください。また、ピロリ菌の検査・治療も行っていますので、いつでもご相談ください。

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