肝臓外来
今回は非アルコール性の脂肪肝について解説しようと思います。健康診断で肝機能障害を指摘される方の多くは脂肪肝が原因となっています。当院では腹部超音波検査をおこなっていますが、肝機能障害がない方でも脂肪肝の方が多くおられます。そしてその多くは飲酒量が少ない方々です。
*肝機能障害についてはブログ「肝機能障害」を参照ください。
NAFLD・NASHの定義・分類
脂肪肝は肝臓に脂肪沈着を認める病態のことを言いますが、大まかには過剰なアルコール摂取が原因であるアルコール性とアルコール摂取がない、もしくは少ない非アルコール性に分類されます。(その他、薬物性や症候性などの原因もあります)
男性では30g/日、女性では20g/日のアルコールを摂取しているとアルコール性になり、これより少なければ非アルコール性となります。
飲料 | 日本酒 | ビール | 焼酎 | ワイン | ウイスキー | 酎ハイ |
アルコール 度数 | 15% | 5% | 25% | 12% | 40% | 3~8% |
アルコール 20gの量 | 180ml | 500ml | 100ml | 200ml | 60ml | 310~830ml |
アルコール 20g目安 | 1合 | 中瓶or 500ml1缶 | コップ 1/2杯 | グラス 2杯 | ダブル 1杯 | 350ml缶 1本(8%) 1.5本(5%) 2.5本(3%) |
非アルコール性の脂肪肝は医学的には非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)と言われ、さらに病理学的に肝細胞に脂肪変性のみ、あるいは脂肪変性に炎症細胞浸潤のみを認める非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver:NAFL)と、肝臓の脂肪変性や炎症細胞浸潤に加え、ballooning(肝細胞風船様変性)や肝線維化を認める非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)に分類されます。いきなり専門用語満載になりましたが、肝線維化が進むと肝硬変や肝がんの発症につながりますので、簡単に言うとNAFLが進行した状態がNASHになります。そしてややこしいですが、NAFLDが一般的にみなさんが言う脂肪肝となります(非アルコール性)。
NAFLD・NASHの疫学
【有病率】
- 肥満人口の増加を背景にNAFLDの有病率は上昇していると考えれらています。
- 日本におけるNAFLDの有病率は男性で32.2~41%、女性で8.7~17.7%であり男性の方が高くなっています。
- 女性においては60歳以上に多いと報告されており、加齢や閉経に伴うエストロゲンの低下がNAFLD病態の進行に影響していると考えられています。
- NASHの有病率は3~5%程度と推定されていますが、正確な有病率と性差はわかっていません。
- BMIの増加に伴いNAFLDの有病率は上昇しますが、非肥満の方でもNAFLDは18.4%との報告があります。
【NAFLDにおける生活習慣病の頻度】
- NAFLDにおける肥満の頻度は約50~70%
- NAFLDにおける脂質異常症の頻度は約60~80%
- NAFLDにおける高血圧の頻度は約40%
- NAFLDにおける糖尿病の頻度は約20~50%
- NAFLDにおける高尿酸血症の頻度は約30%
NAFLD・NASHの発生機序
【過剰な脂肪の蓄積】
肝臓は腸から吸収した栄養素を取り込んで、分解したり新たに合成したりして、全身にバランスよく栄養を供給する役割を担っています。摂取された糖分はグリコーゲンとして肝臓に一時的に貯蔵されますが、過剰な当分は中性脂肪として肝臓に蓄積されます。余分に摂取された脂肪分の他に、余分に摂取された蛋白質も脂肪として肝臓に蓄積します。
【インスリン抵抗性】
インスリンは血糖値を下げるホルモンですが、肥満の方や運動不足の方はインスリンの効きが悪くなり、このことをインスリン抵抗性と言います。インスリン抵抗性があると脂肪細胞からの脂肪の放出が増加し、肝臓に脂肪が蓄積しやすくなります。
【遺伝的要因】
最近の研究では肝臓に脂肪がたまりやすい人がいることがわかっており、「PNPLA3」という遺伝子が関係していると報告されています。
【肝細胞障害】
NAFLDになると過剰な栄養を分解してエネルギーに変えるときに、活性酸素などの有害な物質が多くできる「酸化ストレス」という状態を引き起こし、肝細胞を傷つけます。
その他、腸管細菌のバランスの変化や免疫系の反応も関与していると言われています。
NAFLD・NASHの診断
【問診】
飲酒歴、生活習慣病の有無(脂質異常症、糖尿病、高血圧など)、既往歴、治療歴、内服薬(サプリメントを含む)、体重の変化、アレルギー、輸血歴、家族歴など
【血液検査】
B型・C型肝炎ウイルス、各種自己抗体、コレステロール、中性脂肪、血糖、HbA1c、甲状腺機能など
NAFLD・NASHの進行具合をみる肝線維化マーカー:M2BPGi、オートタキシンなど
スコアリングシステム:FIB-4 index、NAFLD fibrosis score (NFS)など
【画像検査】
超音波検査、CT検査、MRI検査がありますが、超音波検査が被曝もなく簡便にできます。
超音波検査、MRI検査で肝臓の硬さ(線維化)を調べるエラストグラフィーという検査をすることもあります。
【肝生検】
NASHの診断には肝生検を行うことが必要となります。肝生検は入院で行うことが多く、体表から肝臓へ針を刺して肝組織を採取する検査です。侵襲のある検査であり、出血や疼痛の合併症や費用の面でもすべてのNAFLDの方に行うことは現実的ではありません。他の疾患との鑑別が必要な場合や、肝線維化の進行が疑われるときに推奨されています。
(NAFLD/NASH診療ガイドライン2014より引用)
NAFLD・NASHの治療
NAFLDは肥満、脂質異常症、糖尿病、高血圧などのメタボリックシンドロームと関連する合併症を伴うことが多く、併存する場合は同時に治療することが重要です。また、命にかかわる心筋梗塞や脳卒中などの心血管系疾患になることもあり、肝障害だけではなく全身疾患として治療していくことが必要となります。
NAFLDの治療の基本は食事・運動療法によって生活習慣を改善し、肥満などや糖尿病・脂質異常症・高血圧などの基礎疾患を是正することです。NASHまでには至っていない脂肪肝は生活習慣の改善のために食事運動療法を行いながらNASHに進行しないように定期的に経過を見ます。NASHで肥満があるときは体重を7%減量することを目標に治療を行い、基礎疾患がある場合はその治療を並行して行います。肥満がない場合は基礎疾患の治療がメインになりますが、更に基礎疾患もない場合は、ビタミンEが効果があるとされています(*NASH・NAFLDに対する保険適応はありあせん)。NASHになると肝硬変に移行したり、肝がんを発症したりしますので、脂肪肝だけの病態に比べ短い期間での血液検査や画像検査を行うことが必要となります。
(NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)より引用)
当院では肝臓専門医による肝臓外来を行っており、B型・C型肝炎の指定医療機関及び治療実施医療機関となっています。採血、エコー検査を行っており、より専門的な検査や治療が必要な場合は、近隣の総合病院や大学病院へ紹介させていただきます。当院はWEB予約も行っていますので、お気軽にご相談ください。
肝疾患に関しての概要はホームページにありますので、興味がある方は肝臓外来ページをご覧ください。