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胃腸科・消化器内科

下痢になったらどうする?

この度、日本消化管学会から便通異常症診療ガイドライン「慢性下痢症」が刊行されましたので下痢について解説していこうと思います。

下痢はとても身近なもので、ほとんどの方が経験したことがあると思われます。下痢といえば水みたいな便のことと思っている方が大半と思いますが、実は定義があることをご存じでしょうか。

下痢の定義:「便形状が軟便あるいは水様便、かつ排便回数が増加する状態」

便の形状はBristol Stool Form Scale(BSFS)が用いられ、下痢は6,7型になります。

BSFS

マイランEPD合同会社発行のアミティーザ患者指導用ツールより引用

正常排便回数は2~3回/日以上と定義されており、下痢の定義としての排便回数が増加した状態は3回/日以上と定義されています。ただし、排便回数は食習慣によって大きく変化するものであり、個々で認める正常回数よりも増加した場合を排便回数の増加と定義する考え方もありますので、一概に3回以上が下痢というわけではありません。

慢性下痢症についても定義されており、期間は4週間以上となっています。

慢性下痢症の定義「4週間以上持続または反復する下痢のために日常生活に様々な支障をきたした病態」

急性下痢症の原因として最も多い感染性の下痢は通常1週間、長くても4週間で改善することから慢性下痢症は4週間以上と定義されています。

胃腸科の外来には下痢が心配と受診される方が多くおられますし、かかりつけの方でも最近下痢になって心配と言われる方がおられますが、排便回数を聞くと1~2回/日と言われる方が結構おられます。お気づきと思われますが、これらの方は厳密には下痢ではありません。定義の問題ではありますが、もともと軟便~水様便が1回/日の方は病気があるわけではなく、食習慣の影響かもしれません。しかし、下痢ではないから大丈夫というわけではなく、何かしらの病気が隠れていることがありますので、症状が改善しなかったり増悪するとき、新たな症状がでてきたとき、心配なときは検査をすることをお勧めします。

【その下痢様子みていい?】

下痢になったときに一般の方が一番心配されるのが、「このまま様子を見ていいのか」ということだと思います。多くは一過性のもので数日で良くなることがほとんどですが、経過が長くなると何かしらの疾患が隠れている場合があります。また、下痢で病院にかかっていいものかと思う方もいるかもしれませんし、仕事や学校ですぐに病院受診できないこともあるかもしれませんのでそこら辺を解説しようと思います。

まず大前提として、症状があるのであればどのような状況であっても病院受診していいことになっています。ただ、大きな病院になると、紹介状がなければ受診できなかったり、軽症であれば近くのクリニックに行ってくださいと言われることがあるがあることも事実です(最近は少なくなりましたが)。たしかに大病院の方が、出来る検査が多いので、より詳しい検査ができることは確かですが、待ち時間が長くなることもあり、軽症の疾患であればクリニックの方が早く診療できるメリットもあります。また、職場や学校によっては下痢があることで病院受診や検査をするように指示されることもありますので、ご確認をお願いします。

下痢の多くは一過性で時間がたてば良くなることが多いので、下痢になったときにまず確認することは、症状が我慢できるか、日常生活に支障を来していないかということです。これは早期の病院受診が必要かの目安になりますが、人によって違いますので注意が必要です。特に小児や高齢者、持病がある方、抗がん剤治療を行っている方、免疫力が低下している方は慎重に判断しましょう。

①すぐに病院を受診した方がいい症状としては以下のものがあります。(言い換えると早期の治療、入院の必要があるかもしれないということです!)

食事がとれない、きつくて動けない、下痢がよくならない、お腹の痛みがよくならない、嘔気・嘔吐がひどい、血便がでる

この場合も感染性腸炎が多いですが、症状がひどかったり、血便がでるときには重症の腸炎(O-157腸管出血性大腸菌など)や虚血性腸炎の可能性がありますので、早期受診をお勧めします。また、食事がとれなかったり動けないときは、脱水の危険性があり、点滴が必要になりますので受診をお勧めします。

*下痢に関しては必ずしも疾患によって入院が決まるわけではなく、症状がひどくて家に帰れないときは入院になることが多いです。

②次に、我慢できなくはないが、受診に迷う状況の時は、症状の経過が重要です。徐々に良くなっている場合は、受診しなくてもいいかもしれません。徐々に悪くなったときは受診をお勧めしますが、すぐに病院受診できなかったり、迷うときは以下の項目をご確認ください。

  1. 数日前~直前の食事内容(生もの、カキ、肉の生食、アルコールなど)
  2. 抗生剤などの服用(現在もしくは数日前まで)
  3. 腹痛、嘔気・嘔吐(我慢できるか、良くなってきているか)
  4. 食事がとれているか
  5. 発熱
  6. 血便
  7. 周囲に同じ症状の方がいる
  8. 4週間以上続いている、または以前から繰り返している

1.食べ過ぎたり、脂ものが多かったり、辛い物を食べた、アルコールを摂取したなどがあったときは、食事による影響が考えられます。カキや生の鶏・豚肉、時間のたった食事などの摂取がある場合は感染性腸炎の可能性がありますが、様子を見れそうであれば必ずしも受診しなくてもいいです。

2.抗生剤などの薬物は下痢を引き起こす可能性があり、中止することで改善します。しかし、もともと理由があって処方されているものなので、自己判断で中止せずに処方された病院に相談して下さい。

3.下痢を引き起こす疾患すべてが腹痛を来す可能性があるので、程度が重要です。便が出た後に軽快するのであれば様子を見てもいいことが多いです。嘔気嘔吐に関しては、感染性腸炎のことが多い印象です。

4.腹痛や嘔吐のため食事がとれないことがあります。水分が取れない場合はすぐに病院受診をご検討ください。1~2日程度であれば水分やゼリータイプの栄養剤の摂取で何とかなる場合がありますが、脱水や栄養不足に陥ると日常生活に支障が出たり、重篤な状態になる可能性がありますので、高齢者や小児は特に無理をせず病院受診をお考え下さい。

5.発熱がある場合は感染性腸炎の可能性が高いです。ただ、最近ではCOVID-19やインフルエンザでも下痢がある場合がありますので、受診するつもりがなくても職場や学校に確認した方がいいと思います。

6.血便がある場合は、症状が軽くても受診した方がいいと思います。出血がある場合は、一段階悪い状態と考えた方がいいです。左下腹部痛と血便があれば虚血性腸炎の可能性が高く、軽症であれば受診しなくてもいいことがありますが、放置すれば重症化する場合もありますので注意が必要です。前述の腸管出血性大腸菌なども放置することで重症化しますので、早期に治療することが重要です。また、大腸がんが隠れている場合もありますので、受診せずに血便がよくなっても落ち着いてから大腸カメラをすることをお勧めします。

7.周囲に同じ症状の方がいる場合は、感染性腸炎の可能性が高いです。家族などの近い人から感染した場合は同じ経過をたどることがありますので、先に感染した方に経過を聞くと今後の対応がしやすくなります。飲食店や同じ食事で症状が出た方は食中毒の可能性があります。原因となる菌やウイルスによっては重篤な症状を呈することがありますので、心配ならば早めに受診することをお勧めします。また、飲食店での食中毒であれば保健所に届け出が必要になりますので、迷うときは保健所か病院にご相談ください。

8.4週間以上下痢が続く場合は慢性下痢症となります。感染性腸炎以外の疾患が疑われますので、一度受診することをお勧めします。

*大腸がんに関しては便通異常(下痢・便秘)があったり、なかったりするので上記があてはまりませんのでご注意ください!

【下痢になったときの検査は?】

  • 問診
  • 便検査
  • 血液検査
  • 画像検査(エコー、レントゲン、CT、MRIなど)
  • 大腸カメラ

問診は一番重要です。症状や経過、食事・内服歴、便の性状、周囲に同じ症状の方がいるかなどを問診します。

便検査は原因を同定することに役立ちます。細菌培養検査とClostridium difficile感染症のトキシン検査、ノロウイルス・ロタウイルス迅速キットなどがあります。感染性腸炎の原因の多くはウイルス性で数日で良くなることが多いので、細菌培養はウイルスの検査でがきないことと、結果が出るまでに時間がかかることから、一般的に行わないことが多く、経が過長い方や重症の方、入院中の方などに行われます。Clostridium difficile感染症のトキシン検査は抗生剤を内服している方や、既往がある方にする検査であり、クリニックレベルでは行わないことが多いです。ノロウイルス・ロタウイルスは迅速キットがあり、15分程度で結果が出ますが、ノロウイルスキットは3歳未満、65歳以上の方のみが保険適応となりますので注意が必要です。

血液検査は炎症の程度や脱水の状態を確認することに役立ちます。白血球・CRPが上昇する場合は細菌性が疑われますので、ウイルス性のとの鑑別ができる場合があります。その他、ウイルス性の場合は肝胆道系酵素が上昇する場合があります。

画像検査は軽症の場合は行わないことが多いです。重症の時や血便があるときはCTを行うことが多いです。その他、原因がわからないときはエコーを行うことがあります。MRIはクローン病のときに行うことが多いです。

大腸カメラをすることで症状が悪化する場合がありますので、軽症であれば行わないことが多いです。難治性の下痢やがんなどの器質的疾患が疑われるとき、血便があるとき、下痢が持続しているときは大腸カメラが推奨されます。特に下痢が持続しているときは潰瘍性大腸炎、クローン病の可能性がありますので注意が必要です。また、過敏性腸症候群の場合も器質的疾患の除外目的の検査が必要になります。

【下痢の原因は?】

下痢症状出始めの時期は鑑別が難しいですが、感染性腸炎が多くを占めています。4週間以上続く場合は8個に分類されています。

〈1~2週間くらいで治る場合〉

感染性>薬剤性、食物起因性など

〈4週間以上続く場合〉

薬剤性、食物起因性、症候性(全身疾患からの下痢)、感染性、腫瘍性(がんなど)、炎症性(潰瘍性大腸炎、クローン病など)、下痢型過敏性腸症候群、胆汁性、機能性

【下痢の治療は?】

前述したように下痢のほとんどはウイルス性の感染性腸炎であり、数日で良くなることが多いことと、抗生剤が効かないので整腸剤での経過観察になります。細菌性の場合でも軽症であれば、抗生剤を内服しなくても改善することが多いので、経過観察になります。腸に刺激を与えないように、脂ものや辛いもの、アルコールは控えて消化の良い食事を取るようにしてください。脱水予防のために水分摂取も多めにお願いします(心臓・腎臓が悪い方は注意してください)。

食事がとれない重症の感染性腸炎の場合は、点滴治療が必要となり入院になることがあります。原因菌が同定されれば、抗生剤治療を行います。

感染性腸炎以外の器質的疾患の場合は疾患に準じた治療を行います。

成田クリニックでは胃腸科・消化器内科外来を行っており、下痢・便秘・腹痛などの症状に対応しています。下痢が治らないときや下痢にお悩みの方はお気軽にご相談下さい。胃カメラ大腸カメラも行っていますので、検査希望の方は予約をお願いします。予約から検査後までの流れも参照ください。

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